第13回 地震と円 |
新潟の中越沖地震は多くの被災者を生み出したばかりでなく、原発の停止や自動車六社の生産中止など、日本全体にさまざまな影響を与えた。地震の負のパワーとそれが日本のどこでも起こりうるリスクの上に、我々の経済や生活が成り立っていることを改めて思い知らされた。
ところで地震と言うと20数年前を思い出す。私が米銀の東京支店にいた頃だ。ある日上司から呼ばれた。
「明日から1週間ほど休暇を取るからディーリングルームの責任と権限はお前に預ける」
私は突然で驚いたが、上司がいない開放感と自分が全権を握ってやれる意欲もわいて、緊
張は増したがうれしいような気がした。懸案事項や本店への連絡などについて説明を受け
た後、彼は口元に笑みを浮かべながら言った。
「もし地震でも起きたらドルをできるだけ買っておいてくれ」
「それは当然です」
「東京にひどいのが来たら、ドル円は10円くらい飛ぶかもしれん」
「そうなったら通信手段も壊れるから、一ドルも買えないかも。それに逃げるのが精一杯でマーケットどころではないでしょう」
「そこを何とかするのが責任者の仕事だ」
最後の言葉だけは笑っていなかった。
1週間後、彼の部屋で。
「何も起きなくて良かったな」
彼は機嫌よく言った。私は何のことだかわからなかった。1週間前に地震の話をしたことなど忘れていた。
「実は東京近辺で深刻な地震が起こる可能性が高いという情報があって、我々数人のヘッドクラスは東京から避難していた」
「えっ」
「ひどいと思わないでくれ。銀行のマニュアルにちゃんと書いてあるのだ。キースタッフが皆事故にあったら支店の運営に支障が出る。それを防ぐためだ」
確かに主要なスタッフ全員が同じ飛行機に乗るなとか、いろんな危機管理対策はマニュアル化されていた。しかし釈然としない気持ちだった。
それからしばらくして週刊誌に地震予測の記事が載った。著名な地震学者の予測だが、一部の外人のコミュニティーで話題になったと書かれていた。
その頃は地震が起きればドル買い円売りだったが、最近はあまり反応しなくなった。それだけ地震が日常的になったことと、地震が起きてもすぐに復興するという見方が支配的だからだろう。まるで不順な天候と同程度の捉え方だ。それに円は長期間の低成長と低金利など、十分売られる要因があり、それ以上の売り要因があってもあまり注目されない事情もある。
しかしその経済や社会システムへの破壊的な影響を考えてみれば、これ以上の円売り要因もないのだが。 (小口) |
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第12回 個人のリスクと国家のリスク |
個人の為替取引が活発になった。東京市場での個人の為替取引量は全体の2割から3割程度まで増加しているようだ。個人の為替取引というと、今では外貨保証金取引が挙げられる。一定額の資金を取引業者に預け、その数倍、数十倍の金額の外貨の取引をするものだ。
それ以外にも外貨預金、投資信託、外債などの購入をする人は為替取引をすることになる。日本の個人の外貨資産残高は2006年末で40兆円、この内半分以上は投資信託であり、次に外債、そして外貨預金などがある。
個人の外貨投資はここ数年間、特に伸びていて、ついに生命保険会社の外貨資産残高を超えた。生保は80年代半ばから外貨投資の代表選手で、外為市場でも当時はセイホという単語は世界の市場を駆け巡っていた。それが今や個人がとって代わった。時代の流れを感じざるを得ない。
個人為替の取引の急増の中、外貨保証金取引で上げた利益に絡んだ脱税事件が新聞をにぎわせた。主婦や退職した人が数億円の利益を申告しなかった。おそらくポンド、オーストラリアドル、ニュージーランドドルなどの高金利通を買って利益を上げたものと推測される。
日本の個人が為替取引を増やしてきたのは、ちょうどドルが、円以外の通貨に対して下落して時期に重なる。つまり円で外貨を買って持っていれば、全ての人に利食いのチャンスがあったわけだ。こうした局面が何年も続くのは珍しい。
だから個人は円高局面になると、自分の外貨の買い持ちポジションを心配するよりも、安く外貨を買えるチャンスが来たと捉える。実際そうした考えで、為替取引をした人は成功した。為替の専門家は、為替取引で大事なことは損切りで、必ず損切りの注文を置けとアドバイスを与える。しかし実際は、損切りをしない人のほうが儲かったはずだ。
今やドル円の相場は、円高になっても、個人が円売りを実行するから、円高阻止のために当局が市場介入する必要もない。実際に当局は2004年の3月を最後に円売り介入をやめてしまった。おかげで為替レートを操作しているという米国からの批判を日本は受けずに済んでいる。代わりに中国が矢面に立つことになった。
こうした政治的リスクのほかに、介入により増加する巨額の外貨準備は、為替リスクや金利リスクを心配しなくてはならず、運用についても今以上に頭を悩ましていたはずだ。
つまり個人は、国の負うべきリスクを肩代わりし、輸出産業を支えることで、日本経済の回復に大いに貢献したのだ。
では将来、相場が円高に進む場合はどうだろう。ほとんどの個人にとって不利な展開になるのだが、これまでのように個人の円売り外貨買いが入って、相場が戻ればいいが、そのまま円高が続いた場合、一体誰が個人を助けてくれるのだろう。輸出産業は自分の外貨を売るのに精一杯だろうし、当局は個人が損をするからといって円売り介入はしない。
かってドル円が200円台のとき同じようなことがあった。航空会社や石油会社などがドルを先物で大量に買ったのだ。ドルの先物はディスカウントなので期間の長いドル買いをすると、200円を切って100円台のレートで為替予約が出来た。当時誰しも100円台になるとは想像しなかった。
今すぐに円高が来るというわけではない。まだ円売りのポジションは有効だ。だが現在の相場環境は歴史の中では特殊な期間であり、それが修正されるのも歴史の一こまだ。これは心の片隅には置いたほうがいい。 (小口) |
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第11回 市場での個人参加者の運命 |
外為市場では時に、全世界が注目するような市場参加者が現れます。ビッグスペキュレーターです。彼らの売買が為替レートへ与える影響が大きいので、他の市場参加者の注目の的になるのです。
70年代ではフォルクスワーゲン、80年代では中東のオイルマネーをバックにした金融機関、ソ連の銀行、90年代以降では、ヘッジファンドが代表的です。こう見ると外国の市場参加者ばかりですが、日本の市場参加者が世界のディーラーから注目を浴びたこともありました。
80年代のセイホ(生命保険会社)、鉄鋼商社。衣料メーカーなどは世界のディーラーがその市場での動向を探っていました。
最近、市場で注目されているのは日本の個人です。日本の個人為替は98年の外為法改正以降、徐々に増加傾向をたどり、最近では東京市場の2−3割程度を占めているといわれています。もはや外為市場の一大勢力なのです。
こうした個人為替取引は今後も、団塊の世代の退職や円の相対的な低金利傾向の元で、増加傾向が続くと見られています。
特に今回、世界の株式市場の急落が、円のキャリートレードの巻き戻しとの関連で発生したとの見方が強いことから、日本の個人に注目が集まりました。
キャリートレードは金利差を利用した取引ですが、これはヘッジファンドや金融機関のディーラーばかりでなく、日本の個人の取引方法でもあるからです。
日本の個人は、外債を売り出しや投信で買ったり、単に高金利通貨を買ったりして、為替の外貨ロング円ショートポジションを抱えています。
ただ個人がヘッジファンドや金融機関のディーラーと大きく違う点は、一定期間内に損益評価をする必要がないことです。前者は月単位、年単位でポジションの評価をします。したがって相場が逆方向に動いたとき、損失が膨らまないようにポジションを切らなければなりません。しかし個人は自分の自由です。含み損を抱えてそのままポジションをキャリー(持ち越し)できます。
したがって個人は今回のようにドルが急落したりすると、買い場と見てナンピンしたりします。相場が戻ればこうした方法は威力を発揮します。また例え短期間で相場が戻らなくても、その期間は金利差を稼げるので採算レートは低くなります。相場が逆方向に行ったら塩漬けしてしまえ、いつか陽の目を見るだろう、と思うのです。株と同じやり方です。
時間を味方につけた個人の方法は、10回中9回は成功します。しかしこの方法の危険な点は、1回の負けで9回の勝ちを合計した額以上の損失を出してしまうことが多いことです。
これまで世界の市場で注目された市場参加者の多くは、5年ほどで舞台から退場しました。日本の個人が今後5年以上世界の市場で生き残るためには、この一回の損失額をどの程度小さくするかにかかっています。 (小口) |
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第10回 為替ディーラーに未来はあるか |
外為市場の発展は、IT(情報技術)の発展と共にあります。80年代ごろまでは、為替取引は電話やテレックスが中心でした。90年代にはロイターのディーリングシステムが取って代わり、為替取引(銀行間取引)はスクリーンを見ながら端末を通じて取引をするようになりました。またブローカーを通して行う取引では、電子ブローキングが開発され、人が行う仲介業務は瞬く間にシェアを失うことになりました。
そして90年代後半からは、パソコンの普及、発展を背景に、銀行と顧客との取引でも端末を通した取引が増加してきました。銀行のディーリングルームには金融機関や企業などから多くの取引が持ち込まれます。こうした取引が銀行のコンピューターに直接インプットされた場合、銀行は為替ポジションを持つことになります。そして銀行のディーラーはこうした為替ポジションを管理します。つまり市場で売るのか買うのか持ち続けるかの判断をします。
ところが最近では、こうしたディーラーの役割さえもコンピューターが果たすようになってきました。人工知能を使って、そうしたことが可能になっているのです。こうしたコンピューターの能力が向上すればするほど、ポジションの管理がうまくいくことになります。こうなると平均的なディーラーの役割は減少します。チェスでは、人工知能を使ったコンピューターがチャンピョンクラスの実力になっています。相手から取った駒を使える将棋でさえ、コンピューターの実力の向上は目覚しいものがあります。もっともまだプロのタイトル保持者の足元にも及びませんが。
為替の世界でもポジションを持たされることのないヘッジファンドなどの投資家の中には、人工知能を使ったステムトレーディングで自動売買をする人たちは珍しくありません。マーケットメーカーである銀行でもコンピューターがその領域を広げています。
こうした流れを見ると、将来の市場で闘うのはコンピューター同士が主流で、ディーラーは質の高い一部の者が生き残っているだけかもしれません。 (小口) |
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第9回 キャリートレードと円 |
キャリートレードとは低い金利の通貨を借りて、それを売って高い金利の通貨を買い、金融資産に投資をする取引だ。だから資金調達通貨の条件は、金利が十分低いことと、十分な市場流動性があることだ。
現在円の金利は世界で最も低い。それに円資金の流動性は高く、十分な資金を調達できる。だからキャリートレードに使われる。ドル金利が低かったときは、ドルがキャリートレードの資金調達通貨として多く使われた。ドルを借りてアジアの新興市場の株などに投資した。ユーロも金利が低いときは同様だった。ユーロを借り入れ通貨とした東欧諸国への投資は急増した。
こうした金利差を利用した取引は、80年代から増え始めた。日本でも資本取引規制の緩和が進み、80年半ば以降、邦銀の米国債などへの投資は急増した。ただ当時こうした取引をキャリートレードとは呼ばなかった。この用語が使われたのは90年代に入って、ヘッジファンドが大きな金額で金利差を移用した取引を増やし、市場への影響を与え始めた頃からだ。だからキャリートレードは、ヘッジファンドとともに語られることが多い。
こうした取引が盛んに行なわれれば、資金調達通貨の為替レートは安くなる。円は、2001年に量的金融緩和政策を採り、ゼロ金利状態が続き、昨年0.25%利上げしたが、依然として超低金利であることに変わりない。長期の低金利状態が続いているわけだから、キャリートレードの資金調達通貨としては常態化している。
私がディーリングの研修で最初に習ったことにひとつは、金利差を利用した取引では、借り入れが多くなればその通貨の金利は上昇し、投資対象通貨の金利は低下する。つまり金利差が次第に縮小するので、こうした市場環境が長く続くことはない、と言うことだった。確かにドルやユーロがキャリートレードに使われた期間は長くなかった。
その点では円の現在の金利は異常なのだ。なぜこんなに低金利状態が長く続くのか。ちょっと前までは金融機関の巨額の不良債権が、デフレ状況を脱せない大きな理由とされた。しかし現在日本の銀行の不良債権比率は大幅に低下した。それでも金利が上げられない。経済のグローバル化やITの進展などがデフレ要因だとの指摘もある。だがそれは米国や欧州も同様だ。
景気が良くならないから金利が上げられない。もっとものように聞こえる。だがもしかしたら、金利を上げないから景気が良くならないかもしれない。異常な低金利を続けることで本来市場から退出しなければいけない企業が残る。資源の配分が不適当になる。ある程度健康な企業も超低金利というぬるま湯状態が続くから、なかなか鍛えられない。競争力は強化されない。
さらに低金利と円安で最も恩恵を被っているのは、本来そうした市場レートを必要としない大手の輸出企業だ。それにヘッジファンドに代表される世界の投機家たちだ。最も打撃を受けているのは、日本の消費者であり、中産階級だ。これでは消費は盛り上がらない。
来週日銀の政策委員会が開かれるが、日銀は政府の圧力に屈せず、利上げを決定すべきだろう。 (小口) |
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第8回 巨額損失事件の責任 |
先日、三井物産のシンガポール子会社が、ナフサの取引で96億円の損失を出したことが報じられた。トレーダーが今年三月頃からナフサの時価レートを改ざんして、ポジションから生じる収益を誤魔化したらしい。報道記事からなので真相は定かではないが、評価レートを変えて収益を操作するのはよくやる手だ。
本来は、トレーダー部門とは独立した管理部門が、評価レートの客観性をチェックして、トレーダーの保有するポジションの収益が正しいかを確認する。だが小規模の支店などでは人手不足や馴れ合いもありがちで、管理部門の独立性が機能しないことがある。収益を生み出すトレーダー部門に対して、管理部門が従属関係にあるような場合も、こうしたチェック機能が働き難い。
このニュースを見たときにすぐに思い出したのは、DKB(第一勧銀、現みずほ銀行)のシンガポール支店で起こった98億円の為替損失事件だ。もう四分の一世紀も前になる。場所と金額から、古いマーケット関係者は皆、この事件の記憶を辿ったことだろう。当時のシンガポール支店のディーリング部門の責任者が、損失を長い間隠蔽して、損失が膨らんだのだ。
巨額の為替損失事件は、その後も邦銀、商社、米銀支店、石油会社、航空会社、証券会社などで相次いだ。こうした損失事件は日本ばかりではなく、世界中で発生した。数年前には英銀のニューヨーク支店やオーストラリアの銀行でも発生した。
ではこうした損失事件はトレーダーが悪いから発生するのだろうか。彼らの多くは犯罪者として社会から糾弾されたが、自分の懐を肥やすために収益の操作をしたわけではない。私は彼らの何人かとは面識があったが、彼らはトレーダーのスタンダードから見れば、とても良い人の部類に属していた。つまり良識とモラルは備えていた。そういう人たちにこそ収益へのプレッシャーは一段と強まるのだ。
組織はこうしたプレッシャーをトレーダーから、できるだけ取り除いてやることが重要だ。それには独立した管理部門がトレーダーの収益をチェックするシステムを確立することはもちろんだが、トレーダーの収益をガラス張りにさせるしくみと、収益に対してオープンなカルチャーをトレーダー部門に浸透させることだ。
誰も自分のポジションと反対方向にマーケットが動くと、目を背けたくなる。損失に面と向かうことは怖い。そのポジションの存在を否定したくなる。それは自然な反応だ。だからこそそれを防ぐシステムとカルチャーを構築しなくてはならない。 (小口) |
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第7回 北朝鮮との取引 |
北朝鮮の核実験の実施は、北朝鮮の現体制が世界の常識を超えた行動をとる可能性を示した。北朝鮮を相手の対話の限界と圧力の強化の必要性を多くの人が感じたに違いない。それこそ北朝鮮の狙い通りの反応になるのだが、そこまで瀬戸際外交ができるのも、いざとなったら38度線を越えて韓国に侵攻できる準備が整っているからだろう。その可能性に近づくほど北朝鮮の交渉力が高まる仕組みになっている、と北朝鮮は思っている。だから米国も手が出せないと高をくくっているのだ。
そんなわけで圧力の強化は、経済制裁の強化になる。経済の蛇口がだんだん閉まっていくわけだから、ただでさえ経済的疲弊にある国にはこたえる。日本では最近新日鉄が鉄鉱石の輸入をやめた。スーパーでも最近は北朝鮮産のアサリやマツタケをあまり見なくなった。もっとも中国産は相変わらず店頭に並び、その中には本当は北朝鮮産のものがある。金融取引でもそうだが、北朝鮮と明らかにわかる名前で取引はしない。こうした仮名の取引を見破ることが経済制裁の強化につながる。
北朝鮮の外貨準備が現在いかほどあるかは明らかではない。だが乏しい外貨準備であるほどその運用は重要になる。以前、北朝鮮の中央銀行は外国為替取引をしていた。現在北朝鮮の中央銀行と為替取引をする国際的な民間銀行は少ないと思うが、名前を変えて取引をしている可能性はある。
北朝鮮の中央銀行は80年代後半から90年代にかけて、私が所属していた英国の銀行と為替取引をしていた。通常、中央銀行と取引するときは信用限度額も高く設定してあり多額な取引が可能だ。だが北朝鮮の中央銀行の場合、信用力が不十分だったので、マージン(保証金)を置いてもらって、取引をした。個人がやる外貨証拠金取引と同じしくみだ。
時々私の銀行を呼んできては、市場の様子を聞いてから取引をするのが普通だった。金額は50万ドルから2百万ドル。通貨はドル円かポンドドルが多かった。
ここで思い出す取引がある。
北「ドル円は今どうだ」
私「強い、朝からあがっている」
北「ドル円百万ドル買いたい」
私「20−25だから、25だ」
北「なぜそんなに高いのだ」
私「金日成が死んだとの情報のためだ」(英語のスペルが正しかったかわからない)
北「それは誰だ」
私「あなたのボスだ」
北「そんな奴いない」
私「あなたの国で最も偉い男だ」
北「金、、、、、、、、、、、」
私「ドル円25で売ったことを確認したい」
それから返事はなかった。結局この取引は確認できず、不成立。その後、北朝鮮の中央銀行との取引は途絶えてしまった。 (小口) |
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第6回 ヘッジファンドの破綻とトレーダーの環境 |
米国の大手ヘッジファンド、アマランスが破綻しました。天然ガスの取引で60億ドル(7千億円)の損失を被りました。95億ドルの運用資産の大半を失ってしまったわけです。こういう状況になると、彼らは保有資産の売却を急ぐので、資産価格はどんどん下がります。市場は足元を見るからです。
98年に米国の大手ヘッジファンドLTCMは破綻したときはそうでした。LTCMが保有している債券や通貨などの価格はどんどん下がりました。値下がりが激しく、ほとんど値がつかない状況でした。そのまま放置しておくと多くの金融機関も損失を拡大させ、金融システムが機能しなくなる懸念が出るほどでした。そこでFRBが音頭をとって欧米の主要な金融機関にLTCMの保有資産を買い取らせました。
アマランスの場合、こうした深刻な市場状況にはならず、手持ち資産の売却を遂行できました。割安になっているアマランスの持つ資産に対し購入意欲を持つ金融機関が少なくなかったからです。それだけ市場には投資資金が潤沢にあるわけです。
こうした市場を揺るがすような巨額の損失も個人のトレーダーの判断から発生します。アマランスのオフィスは米国のコネティカット州にありますが、今回の損失を引き起こしたトレーダーは、カナダのカルガリーで取引をしていました。彼は昨年までこのファンドの儲け頭であり、彼の自由を阻むものはなかったのでしょう。こうした業界では儲ける程度に応じて自由度が高まるのが普通です。自分の好きな環境で仕事をしたいという望みも、実績があるからかなえられるのです。
私が以前所属していた銀行でも同じようなことがありました。大手米銀で実績も名前もある為替トレーダーが英国の銀行の本店に移ってきました。彼はディーリングルームのあるロンドンの本店ではなく、スコットランドの景色の素晴らしい場所で為替取引をする自由を与えられました。1ヶ月に一度ロンドンのオフィスに顔を出すことが条件でした。
森と湖に囲まれた城のような場所でトレーディングができたらとは思いますが、そうした自由な環境で仕事がうまくいくかというと、そうでもありません。スコットランドに移ったトレーダーも結局うまくいかず、損失を膨らませて銀行を去りました。
環境がよくなると相場では勝てなくなると言われますが、これも劣悪な環境で眉間にしわを寄せながらスクリーンを見ている者のひがみとは言えない真実が含まれているような気がします。 (小口) |
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第5回 リバースインディケーター |
為替レートの予測方法には大別して、経済の諸々の条件(ファンダメンタルズ)を調べて為替レートへの影響を予測する方法と、為替レートの過去の値動きを分析して将来の為替レートの動きを予測する方法とがあります。
為替ディーラーはいずれかの方法、または両方の組み合わせで、為替レートの予測をしてポジションを持ちます。
だが実は方法はこれだけではありません。比較的確率の高い別の方法があります。
大きなディーリングルームにはディーラーが何人も働いています。同じ銀行にいて同じような情報に囲まれていても、その情報の分析や判断はディーラーによって違います。その違いは為替収益の差となって反映されます。収益力の高いディーラーと低いディーラーに否が応でも選別されます。収益力の高いディーラーばかりの集団であれば、そのディーリングルームの管理者は左団扇ですが、実際はそういうわけにも行きません。市場全体でも収益力の高いディーライーは低いディーラーよりもはるかに少ないからです。では収益力の低いディーラーは役に立たない厄介者かというと、そうでもないのです。
収益力の低いディーラーは、情報の着眼点がずれていたり、ずれていなくても、売買の判断が遅かったりします。既にある情報により市場でポジションが積みあがった後で、市場に参入するので、市場の利食いの餌食になるのです。
こうしたディーリングのパターンにはまってしまうと、なかなか抜け出せません。これがそのディーラーの資質だと言ってしまえばそれまでですが、過去に収益力のあったディーラーでもこうしたパターンに陥ることがあります。こうした人の損をする確率は相当高いのです。
したがって為替で利益を上げようとしたら、こうした人の逆のポジションを持てばいいわけです。こうした人がリバースインディケーター(逆指標)になるのです。比較的高い確率で収益が上がります。
この方法を採るためには、複数のディーラーと意見交換する必要があります。同じディーリングルームにいればいいですが、物理的に一緒にいなくてもなるべく多くの人と情報交換のネットワークがあればいいのです。その中でそれぞれの人のディーリングの特徴を把握するのです。
リバースインディケーターとしてのディーラーは、チームにとても役立ちます。もっとも当人は、いくらチームに貢献してもリバースインディケーターと呼ばれるのはおもしろいはずがありませんが。
このようなディーラーはあなたの周りにもいるはずです。彼らは、相場に的確な判断をするディーラーと同じくらい価値があります。それに前者は後者よりもはるかにたくさんいるので、きっと探しやすいはずです。
(小口)
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第4回 不公正取引の土壌 ― 株式市場と外為市場の比較 |
今年になってライブドアや村上ファンドによる粉飾決算やインサイダー取引が相次いで摘発されました。これらは主に株式市場に関するケースです。こうした不祥事の発生する確率は株式市場のほうが圧倒的に多いですが、外為市場でも無縁とは言えません。
株式市場では株式を、外為市場では通貨を取引しますが、株式の銘柄数にくらべ、取引できる通貨の数は圧倒的に少ない。東証一部だけでも上場会社数は約1700社あります。一方東京外為市場で主に取引される通貨ペア(通貨の組み合わせ)の数はドル・円、ユーロ・ドル、ユーロ・円など10種類にも及びません。そのうちドル・円が6割、ユーロ・ドルが1割と、2通貨ペアで全体の7割を占めています。
出来高については、日本の株式市場の1日の売買高が約2兆円余り(06年7月中)に対して、東京外為市場の1日の出来高は約22兆円(2千億ドル)です。
ここからわかることは、外為市場で取引される一つの通貨の市場は、株の一銘柄の市場に対して圧倒的に規模が大きいということです。このような大きな市場では、特定の市場参加者が価格を操作することは困難です。株の場合、公募増資の場合などで主幹事の証券会社が一定期間、株価を一定に保つようにコントロールする場合があります。そのようなことは外為市場の場合は不可能です。特定の銀行が一定期間、為替レートをコントロールすることはできません。変動相場制の下では中央銀行ですら一時的なら可能かもしれませんが、何日もというわけにはいきません。主要通貨の場合は特にそうです。たまに為替レートは世界の誰かの陰謀でコントロールされていると言う人がいますが、これは実態を知らない人の戯言です。
この点では外為市場は、インサイダー取引などの不公正が働きにくい構造になっています。
ではこれまで外為市場では不正がなかったのかというとそうではありません。20年程前のことですが、貿易収支などの経済統計を事前に入手して、その数字が発表される前にポジションを取って、発表されると利食うということを繰り返していた銀行がありました。市場では特定の銀行がこうしたことを何度もやると他の市場参加者は気づきます。
外国為替取引に関して最も多い不正は粉飾決算です。これらは先物やオプションなどのデリバティブを使ったものが一般的です。ただこうした粉飾決算も経理基準が変わって、時価評価が浸透してくると少なくなりました。
こうした不正を防ぐためには、取引のルールやリスク管理などを明確にして、それを厳格に適用することが重要です。しかしもっと大事なことは、不正を市場での悪とする精神の確立です。不正なことは市場参加者にとって最も恥ずべきであるという倫理観を備えることです。市場では新しい商品や取引のスキームが時代とともに進化するので、ルールの明文化が追いつかないというジレンマがあります。それを補うのは市場参加者のモラルしかありません。そうしたモラルを備えるためには若いうちから、ケーススターディーを通して不正の動機や仕組みなどを学ばせることです。こうしたトレーニングにより、モラルの全般的水準が高まれば、具体的な規定が明文化されなくても不正の土壌は生まれにくくなります。
そうなれば日銀総裁の職に就く者は、株式や投資ファンドを所有していることがまずいことだと、自ずと判断できるようになります。 (小口)
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第3回 ストップロス ― 言うや易し、行うは難し |
為替取引で大事なことは?
ストップロス(損切り)を実行すること。
為替取引の経験のある人は何度か、このことを聞いたり読んだりしたことがあるはずです。相場展開により思わぬ額の損失を被らないために、損失を限定することが目的です。そのために為替のポジションを取った時に、あらかじめそのポジションを切る相場水準を決めておくわけです。
確かにこのことはリスク管理上重要なことです。しかし実は、ストップロスの重要性を指摘するだけでは不親切で無責任でもあるのです。
と言うのも、為替レートが一定の幅で動いている局面―レンジ相場―では、ストップロスを置いたがゆえに、いつもストップロスが実行されてレートが元に戻ることがあります。まるで損を出すためにストップロスの注文を出すようなものです。これを繰り返すと損失は累積するだけです。
ではストップロスの注文を出さない方がいいのでしょうか。そんなことはありません。レンジ相場だと見ていても、そのパターンが崩れ、いつレンジを突破してしまうかはわからないからです。そんな時に大損しないためにストップロスは定めておくべきなのです。だからストップロスがいつも実行されたあとで相場が元に戻ってしまうような場合、ストップロスを定めるレートを深めにするか、もっと浅めにするかしなければなりません。
一般的にストップロスの水準はチャートポイントを参考にして決める人が多いですが、これも自分の損失許容能力と相場環境を見ながら定める必要があります。
単にストップロスが重要であると言っても不親切で説得力がないもう一つの理由は、実際にはなかなか実行できないからです。為替レートが当初定めていたストップロスの水準に達した時、それを実行しない人は少なからずいます。
人は相場が思ったのと逆に動いても、自分の持っているポジションに有利な材料を探し、自己正当化する性質があります。それに損を実現したくない。敗北を認めたくない気持ちがあります。組織で働くプロのディーラーの中にも実行できない者がいます。それを実行せずに、損失が拡大すれば上司から叱責を受けたり、最悪の場合はクビにもなります。それがわかっていても、実行しないのです。実行できないのです。言葉ではわかっていても、市場の変動の中で実行を躊躇してしまうのです。そうした難しさがあります。
まして個人で取引をやっている場合、彼を叱責する人も管理する人もいません。ストップロスの実行がより困難な状況にあるわけです。酒好きの人が健康に悪いとわかっていても適正量を越えて飲んでしまうのと似ています。わかっちゃいるけど止められない。人は頭で理解することと実行することが一致すれば、不幸にならないことはわかっているのですが。これはもう自己規律の問題としか言えません。 (小口) |
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第2回 為替市場での重力の法則 ― 円高は急激に、円安は緩慢に |
為替レート(ドル円)の変動にも重力の法則が作用していることをご存知ですか。為替レートは上がったり下がったりを繰り返しながら変動しますが、そのスピードはそれぞれの局面で違います。そこには一つの特徴があります。それは、円高は急激に、円安は緩慢に進行する、ということです。これは35年間の変動相場制下でのドル円相場を調査して出した結論というよりも、30年間外為市場に身を置いた者が得た実感です。
ではそうした特徴がどうして生まれたのでしょうか。二つの理由が考えられます。
一つは、これまでドル金利のほうが円金利よりも高い期間が長かったためです。この場合、ドル売り円買いのポジションを持つと、金利差でマイナスになるので、その不利を上回るスピードで円高が進行しないと利益が上がりません。つまり比較的短期間に大きな幅で円高が進まないと、上手くいかないわけです。
逆にドル買い円売りのポジションを持つ場合、長い期間ポジションを保有すれば、それだけ金利差のメリットを享受できます。為替レートは徐々に円安方向に動いても十分利益が上がるし、為替レートが動かなくても金利差分は儲かります。このような事情から円安は緩慢に長く進行するように感じられるわけです。
円高は急激に、円安は緩慢に進行するという特徴が生まれるもう一つの理由は、為替レートの取引方法に大いに関係しています。外為市場でのドル円の取引は他の多くの通貨と同様、ドルを中心に売買するのが一般的です。つまりドルを円に対して売った、買ったと考えます。外国為替の用語ではYOURS(売る)、MINE(買う)と言います。ドル買い円売りはMINEなので自分に取り込む形になります。ドル売り円買いはYURSだから放出する感じになります。人(為替ディーラー)の感覚として、自分のほうへ取り込むのは一度にたくさん取り込めません。取り込み続けていると重くなる感じがしてきます。一方、放出するのは気分が軽くなり次第に勢いづきます。重いドルを捨てていく気分は爽快です。
このように為替ディーラーはドルの重みを感じながら取引をしています。これが外為市場での重力です。この重力により、どうしても円高に動くときに急激になり、円安が進行する時は緩慢になります。この重力の法則は市場で確立された認識ではありませんが、私自身の感覚としては確実に根付いています。
(小口) |
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第1回 市場が消える |
市場が消えるって知っていますか。デビッド・カッパ−フィールドが黒いスクリーンをかけて消してしまうわけではありません。
外為市場で言えば、為替レートが建たなくなるのです。我々は通常いつでも為替取り引きができます。それは為替レートが常時建っているからです。つまり誰かが常に買値(BID)と売値(OFFER)を建値しているからです。
このサイトにあるリアルタイムレートを見てください。私が今この文を書いている時点で、BID 113.80 ASK(OFFERと同義)113.85 とドル円のレートが建っています。皆さんがこれを見る時のレートはもちろん変化しています。これが通常の状態であり、市場の実態です。建値することをマーケットメイク(market make)と言いますが、市場はこうしたBIDとOFFERの値を建てる人(MARKET MAKER)によって作られているわけです。
ですから市場が消えるということは、建値する人がいなくなることです。建値する人の中心は銀行ですから、銀行が建値を止めてしまうと市場が消えることになります。市場が消えると、為替取引をしたくてもできません。こんなレートで買いたい、売りたい、という贅沢を言っていられません。チャートポイントがどうのこうのという場合でもありません。
通貨当局が強制的に市場閉鎖をすることもありますが、市場の動きの中からそうした状況が生まれることもあります。その場合長い間市場が消えることはまれですが、わずか数十秒でも市場が消えれば、取り引きをする者は肝を冷やします。数十秒の闇の後で建値されるレートは、闇が始まる前のレートとは連続性がなく、大きく異なることが多いからです。まったく計算が狂ってしまいます。
IMF(国際通貨基金)は今月、世界の経済の不均衡(米国の経常収支の赤字とアジア諸国や産油国の黒字の拡大)を市場の秩序を保ちながら修正していくためには、ドルの下落が必要だという趣旨のレポートを発表しました。このまま不均衡が拡大し続ければ、膨らみ続ける風船がいつか破裂するように、いつかドルが暴落する可能性もあるということは、これまで何度か言われたことです。経済が大きな調整をする際には為替レートが大きく動きます。それが急に起こると、為替レートは急落急騰、暴落暴騰になります。そんな局面では市場が消えることがあります。
個人の方の為替のポジションは、ほとんど外貨買い、円売りです。外貨の円に対するレートが下がると不利になります。外貨の多くはドルです。自分の持つ外貨を売ろうとしたとき、市場が消えたらどんなレートで売れるかわかりません。もちろん市場が消えるようなことはめったにありません。今すぐにこうした事態が発生するわけでもありません。しかしこうしたリスクが、昨年よりも高くなっていることは確かです。
従って今後はこうしたリスクを頭の片隅にインプットしながら、市場に参加した方が理にかないます。できればそんな事態に遭遇しても、笑って損切りできる余裕がほしい。そのためにはそれまでに十分な利益を上げておくか、当人の懐具合が致命的な打撃を受けない程度にポジションの額を減らしておくかです。
もっとも私は何度もこうした場面に遭遇したことがありますが、いつも体内の血が急に冷たくなって逆流するような感じになり、笑える余裕はまったくありませんでしたが。 (小口) |
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